「たかしま生きもの田んぼ」では化学農薬や化学肥料の使用を厳しく制限していますが、そのほかにも、「田んぼの生きもの」たちと共生するために様々な工夫を行っています。
田んぼの生きものは、その地域の環境条件によって顔ぶれが変わります。湖のほとり、平野部、山間部と、それぞれの環境に個性豊かな生態系が育まれているのです。「たかしま生きもの田んぼ米」を育む農家は、それぞれが耕作する田んぼやその周辺の生きものを調べ、田んぼと共に守り育んでいく 「自慢の生きもの」たちを見つけ出すことを必須としています。
「自慢の生きもの」たちがより豊かに暮らしていけるように、それぞれの農家が工夫をしています。地域により、さまざまな共生策が展開されています。
中干しとは、田んぼの水を落として地面を乾かし、稲の根を丈夫にするなどの行程をいいます。通常は梅雨の間に実施しますが、そうするとオタマジャクシやトンボのヤゴなどがひからびて死んでしまいます。そのため、カエルやトンボに育って水から離れる梅雨明けまで待ち、中干しを実施します。
田んぼの近代化整備によって水路と田んぼの間に大きな段差が出来たため、産卵のために田んぼを利用していたフナやナマズなどの魚たちの通り道が分断されてしまいました。そこで自由に魚たちが田んぼにのぼれるように手作りの魚道を設置しています。
排水路を堰あげして水面を高くする魚道と、階段状の魚道を設ける方法があります。高島では後者の方法に独自の工夫を加え、メダカものぼれる魚道を設置しています。
田んぼの近代化整備で魚たちが田んぼに入れなくなったのと同じ理由で、水路に落ちたカメやカエルが戻れなくなっています。水路に落ちたカメは日光浴ができず、骨格障害の病気になり、カエルは元の住処に帰れません。そこで、カメやカエルが這いあがれると共に、水路の水流を阻害しない新式のスロープを開発しました。
中干しを梅雨明けまで延期しても、まだカエルになっていないオタマジャクシや、トンボになっていないヤゴなど多くの生きものたちが水の中にいます。そうした生きものが避難できるように、田んぼの中に避難用のビオトープ水路を作る農家もいます。
休耕田は、減反のためにお米を作れない田んぼです。そこを丸ごとビオトープに改造し、年間を通じて水辺の生きものが安定的に暮らせる環境を創り出しています。完成したビオトープは地域の小学生の体験学習の場にもなっています。
冬の田んぼに水を張ることで、ハクチョウなど多くの水鳥が餌をとったり休んだりする野鳥の楽園が生まれます。同時に、土の中のイトミミズが活発化し、田んぼの土の表面を柔らかくして雑草の種を土中深くに埋め込み、発芽させにくくする効果もあります。
かつて、高島市の山村では山の手入れをすることで得た草や木々の若枝を、田畑の耕作用の牛の餌や牛舎の敷き草とし、牛糞を混ぜて田んぼの肥料とする農法が行われていました。近年、里山に手入れがなされず、荒廃した森では山野草や野鳥など、多くの生きものが生息の場を失っています。人と田んぼと森が一体となっていた時代の知恵を取り戻すため、高島の山間部では牛耕の復活に取り組んでいます。
情報提供:アミタ持続可能経済研究所