たかしま有機農法研究会
以前は「無農薬・無化学肥料」というような表示がなされていたものですが、農林水産省のガイドラインによって「栽培期間中●●不使用」とするよう規定されたため、そのガイドラインに順じたものです。これは「無農薬=農薬の成分が農地に一切ない」ということと、「農薬を使用していない」ということの違いを明確にする目的から規定されたものです。近隣の農地や農業用水などから微量の農薬成分が混入する場合も絶対にないとは言い切れないため、というのが主な理由とされています。しかし、それ以外の理由もあるようです。
農林水産省の表示ガイドラインで付記することが規定されている「栽培期間中」という表示について、よくご質問を受けます。栽培期間中とは、前年の栽培の収穫終了時から、翌年の収穫時までの12 ヶ月間を意味します。平成22 年産米なら平成21 年の収穫終了時からの12 ヶ月間ということになります。つまりこの間は農薬や化学肥料を使用していませんよ、という意味になります。よく誤解されて質問されることのひとつに、「田んぼでは使用していないけど、ハウスなどで苗を育てる段階では使用しているのでは?」というものがありますが、苗を育てる春からの期間も栽培期間に含まれますので、育苗期間も含めて使用していないことを示すものです。
「では、栽培期間外では使用しているの?」というご質問もよく受けます。栽培期間外も使用していないものと考えるのが一般的な考え方だと思います。しかし、現実はそうとも限りません。たとえ前年の栽培期間中に農薬や化学肥料を使用していても、翌年の栽培期間中に使用していなければ「栽培期間中●●不使用」という表示ができてしまうことから、同じ田んぼで農薬(除草剤を含む)や化学肥料を1〜2 年おきに使用する「ローテーション方式」での栽培を行い、それを「栽培期間中●●不使用」の表示根拠としている生産者も、実は少なくありません。極端な場合、前年の栽培期間の収穫直前に大量の除草剤や化学肥料を投入してから収穫したとしても、翌年の栽培期間中は使用していないので、「栽培期間中●●不使用」と表示してもガイドラインに違反していないということになります。
「たかしま生きもの田んぼ米」の栽培規定では、後述するJAS 有機認証の規定に沿う形で、こうしたローテーション方式の不使用栽培は行なわないように定めています。つまり、農薬(除草剤を含む)や化学肥料を使用しない田んぼでは、「使用しない状態を経年的に維持継続して栽培すること」を規定しているのです。
JAS 有機認証では、「3 年以上継続して農薬・化学肥料を使用していない農地」であることが前提とされており、他にも隣接する(農薬を使用する慣行農法の)農地との距離や、使用する機材などについても様々な規制があります。さらに、所定の機関に毎年費用を支払いながら認証審査を受けることが義務づけられています。有機栽培米の品質をより確かなものにするための規定ではありますが、一方で認証費用等がかかるために生産コストが嵩み、それを販売価格に反映すると非常に高くなってしまうという側面もあります。
わたしたち「たかしま有機農法研究会」ではJAS 有機認証の方針を尊重しており、個別にJAS 有機認証を獲得している会員もいますが、「たかしま生きもの田んぼ米」にはJAS有機認証米であることを義務付けていません。代わりに、同等の栽培方針と、生きものとの共生策を施す理念を加えた栽培規定を設けています。それは、確かな品質と、生きものたちとの物語をもつお米を、よりお求め安い価格でお客様にご提供したいという願いからのものなのです。
農薬や化学肥料を使用していないことを認証する方法には、JAS 有機認証のように認証機関等による認証を得る「第3 者認証」と、生産者(個人・団体)が自ら認証する「自己認証」があります。「たかしま生きもの田んぼ米」は後者の自己認証の範疇に入ります。「生産者が自ら認証するのでは不正が行なわれやすいのでは?」という疑問を受ける方も少なくはないと思います。しかし、私たちは自らとても厳しい審査を受けていると認識しています。
それは、除草剤や化学肥料を用いない田んぼに暮らす多くの生きものたちからの視線です。最も絶滅が危惧されているというナゴヤダルマガエルの合唱や、稲穂の上を舞うトンボの群れ、田んぼで餌をとるチュウサギたち。そうした様々な生きものたちが自らの姿と命をもって、「たかしま生きもの田んぼ」を認証してくれているのだと思います。
もうひとつには、お互いに有機農法の技術と知識を研鑽しあう仲間の存在があります。たかしま有機農法研究会では、育苗期、田植え直後、中干し前の計3 回に渡り、メンバー農家の生産農地を合同で巡回し、育成状況や生きものの生息状況を調査します。これは、自然の摂理の中で複雑に変化し、多種多様な状態を現わす栽培状況を皆で共有することで、より確かな栽培技術や生きものとの共生策を確立していく目的があります。もちろん、除草剤や化学肥料が使用されていない状態の田んぼであることは、研究会の農家には一目で判ってしまうことなのです。